1月29日 説教要旨

おびえてはならない

2023年1月29日降誕節第6主日
(新しい神殿)
ルカによる福音書 第21章5-19節
牧師 木谷 誠

 本日の聖書にはエルサレム神殿の崩壊をイエスが預言していると受け取れる言葉が記されています。これは危険な言葉でした。
 なぜならイスラエルの心の拠り所であるエルサレム神殿が「そのうち跡形もなくなるのさ」と言っているかのようなイエスの言葉は神殿を冒涜していると受け取られたのです。イエスの真意は何だったのでしょうか?
 神殿の豪華で美しい飾りに見惚れている人々にイエスはこの言葉を言ったのです。
 目に見えるものも大切ですが、目に見えないものも大切です。目に見える神殿は、神を崇め、神との愛の交わりをなすという目に見えない目的のために存在します。その目的を見失ってしまったら、神殿の意味がなくなるとイエスは言いたかったのです。
 目に見える神殿が崩壊しても、神殿の目に見えない目的、すなわち神と交わり、礼拝するという目的を果たすなら、神殿は存続するとイエスは言いたかったのではないでしょうか。
 神殿が崩壊してしまうと云うイエスの言葉を聞いて、人々は驚き、イエスに尋ねます。イエスは、神殿が崩壊する時、他にも大きな苦難が併せて起こってくると言います。
 高校生の頃、近くのルーテル教会に学校を卒業したばかりの牧師さんが来られました。
 その牧師さんは、「救いは、世の中が少しずつよくなって実現するのではありません。救いは、戦争が起こったり、様々な災害が起こったり、混乱して、世の中がだんだん「悪く」なっていって実現するのです。」と言われました。
 私たちは、世の中が進歩していく、だんだん良くなると考えていた時期がありました。いわゆる「進歩への信頼」がありました。
 しかし、そのような言葉はあまり聞かれなくなりました。様々な学問、技術が進歩したとしても、それで社会が良くなってきたのでしょうか。私たちは大きな不安を抱いています。
 そのような不安の中で、この聖書を読むと、聖書の時代を超えた知恵の深さに私たちは驚かされます。そしてこの聖書の中でイエスは「怯えてはならない。前もって弁明の準備をするまいと、心に決めなさい。と言います。
 その理由は、不安に満ちた時代、自分の心の拠り所が崩れていく時でも、イエスが共におられて、慰め、励まし、導き、必要な知恵と力を、適切な言葉を与えてくださるからです。だから、怯えないで、落ち着いていなさい。苦難を耐え忍んで命(永遠の命)を勝ち取りなさいとイエスは励まします。
 大きな混乱に不安を抱く人々に対して、イエスの言葉は実に力強いものです。
 しかし、「忍耐」といっても自分の努力だけでは限度があります。大きな時代の混乱、不安の中、耐え抜いていける忍耐をどのようにしたら身につけることができるのでしょうか。
 ここで「神殿」と云う言葉が大切な意味を持ってきます。教会の暦で本日の礼拝のテーマは「新しい神殿」です。パウロは、コリントの信徒への手紙一6章 19節で、「あなたがたの体は、神からいただいた聖霊が宿ってくださる神殿であり、あなたがたはもはや自分自身のものではないのです。」と言っています。
 私たちが、神を礼拝し、神と交わる時、私たち自身が新しい神殿となるのです。聖霊という目に見えない神の働きが、私たちのうちに宿ります。その時、私たち一人一人は、聖霊を宿す「神殿」となるのです。その時、私たちは聖霊の働きによって、必要な言葉が与えられます。忍耐して歩み、命を勝ち取ることは、自分の力ではなく、私たちが新しい神殿となり、聖霊を宿すことによって可能なのです。
 さらに、私たちが共にいて、神を礼拝し、神と交わる時、また互いに共にいて交わる時、私たちの交わりの中に神が生き生きと働き、大きな祝福が与えられます。その時、私たちの交わりが「新しい神殿」となるのです。一人一人、個人だけが、「新しい神殿」、「神宿すところ」となるばかりでなく、私たちの交わりが、この今治教会が「新しい神殿」、「神を宿すところ」、「聖霊の住まい」となるのです。「わたし」が新しい神殿となるばかりでなく、「わたしたち」が新しい神殿となるのです。
 そのようにして、私たちが神を礼拝し、神と交わる時、聖霊を受け入れ、神の愛をいただいて、この混乱の時代に「新しい神殿」として、「聖霊の住まい」として忍耐して歩み、命を勝ち取ることができるようになるのです。

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